意外と簡単!?数多くの障壁を突破したのは「アウトプットの強さ」だった
突破インタビュー その③

意外と簡単!?数多くの障壁を突破したのは「アウトプットの強さ」だった

突破インタビュー、それは社内やクライアント、世間の常識といった壁を超えてきたクリエイターたちの物語。「無理だろ」「別案ないの?」そんな壁を突破してきた猛者たちに、エピソードをお聞きしました。
突破したクリエイティブ
『ナショナル冷蔵庫 コンパクトBIG』ラジオCM
今回取り上げるのは、突破クリエイティブアワードの司会者でもある中川 真仁さんが2008年に制作したラジオCM作品。 「音声しか使用できない」という制限があるラジオCMにおいて、驚くべき方法で常識を突破した背景……。クライアント側であるパナソニックの齊藤美和子さんにもお越し頂いて、当時のことを振り返ってもらいました。
株式会社電通 中川真仁(クリエイター)、パナソニック株式会社 齊藤美和子(クライアント)

今回は2008年に放送された『ナショナル冷蔵庫 コンパクトBIG』のラジオCMについてお聞きしたいと思ってます。

8年も前のCMのことを今さらお話するのは、なんだか恥ずかしいですけども。これは大阪の『大広』に所属していた頃に作ったものですね

8年も前でしたっけ?そうか、まだ『ナショナル』だった頃ですもんね
※現在は『松下電器』『ナショナル』『パナソニック』が統一され、『パナソニック株式会社』となっている

当時、僕は入社5年目くらい。CM業界のことが分かってくると同時に、『面白いものを作れる先輩』は山ほどいるんだから、自分は根底から新しいことをやらなきゃ生き残れないぞと、燃えていた時期ですね

ナショナルとしては、どういった経緯で中川さん(大広)にCM作成を依頼したんでしょうか?

大広さんにはもともとラジオ用に家電CMを作ってもらっていたんです。ただ私の中には常に課題がありました。それは『ラジオCMは突破したものを作らなきゃだめだ』ということです。当時若手だった中川さんには非常に期待していましたね

ラジオのCMというのは音声しか使えないんで、似たようなアイデアになってしまうことが多々あるんです。ナショナルのブランド力を高めるために、とにかく他とは違うことをやりたいと。大広としてはとにかく色々なアイデアを考えて、たくさん企画を作りました。たぶん雑誌一冊分くらいの企画書の束になったと思います

その膨大なアイデアの中から、今回ご紹介するCMを制作することが決定したわけですね。まずはどういうCMだったのか教えてください。

ナショナル冷蔵庫『コンパクトBIG』ラジオCM 40秒

「冷蔵庫の中に…」篇

ナショナルの冷蔵庫、『コンパクトBIG』は冷蔵室が約30リットル広くなりました。
だから……
「明治ブルガリアヨーグルト♪」
……だってたくさん入りますし
「1、2、サンガリア♪」
……のみっくちゅじゅーちゅだって冷やし放題。
「アサヒ スーパー ドラ~イ♪」
……をキンキンにして、お風呂上りに一杯、なんていうのもいいですね。
さらに、冷凍室も2年前に比べて約1.5倍になったから……
「グ・リ・コ~♪」
……のアイス、
「牧場しぼり~♪」
……を買いすぎてしまっても大丈夫。

おなじみの商品がたっぷり入る
「ナショナル~♪」
……の『コンパクトBIG』です!

製品の訴求ポイント“容量がたっぷり入る”というのを音声だけで表現するために、『明治ブルガリアヨーグルト♪』とか『アサヒ、スーパー ドラ~イ♪』といった、サウンドロゴをたくさん詰め込んでみたんです
※サウンドロゴ…企業がCMなどで宣伝効果を高めるために、商品名にメロディを付けたりしたもの

これ、すごいアイデアですよね!一体どうやって思いついたんでしょう?

『“聞いただけでイメージに繋がるような音”をたくさん使ってCMを作れないかな?』というアイデア自体はずっと持ってまして。ラジオCMだから音しか使えない=“制限”と考えるのではなく、音しか使えないことがメリットになるようなものを作ってみたいと

では、冷蔵庫のCMをどうしようか……という手順で考えたのではなく、アイデアが先にあって、ちょうど当てはまるのが冷蔵庫だったというわけですね

その通りです。サウンドロゴをたくさん使えば、冷蔵庫の売りである“大容量”を表現できる……これは良いかもしれない、と。それから一気に原稿を書きまして

その原稿を、中川さんの上司にあたる方がプレゼンしてくれたんですね。もう話を聞いた瞬間から、『これはすごい!いける!』と思いました。ただ、その一方で実現できるかどうかは非常に疑問でした

それはなぜでしょう?

他社製品のサウンドロゴを使うとなると、それぞれの企業に許可をもらわないといけません。それはもう、途方もない作業です。また、仮にすべての許可が取れたとしても、今度はラジオの電波に乗せられるのか、という問題があります

『ダブルスポンサー』といって、複数の会社の利益になるようなCMは、あまり良くないとされてるんです。あと単純に誤認というか、視聴者にとって何のCMなのかわからなくて紛らわしいから、普通は流してくれないんですよね

サウンドロゴをたくさん使うというアイデアはとても素晴らしいんですが、もう、明らかに高い壁が、何枚も立ちはだかっているわけです。

中川さんはその段階で『実現できる!』と確信してたんですか?

以前に広告を作ったことがあるとか、そういった付き合いのある会社に頼めばなんとかなる……かな~、とは思ってました。制作が決定してからはひたすら交渉ですよ。こういうCMを作りたいんで、サウンドロゴを使用してもいいでしょうか、と

お願いした企業の反応はどういうものでしたか?

意外にもほとんどの企業が『使ってくれていいですよ!』と言ってくれて

それは企画の力によるところが大きいでしょうね。『このCMは話題になりそうだ』と思ってもらえば、『サウンドロゴによって自分たちの商品の認知度も上がる。損はしない』と思ってくれる

なるほど。これでサウンドロゴの使用許可という壁は突破できたと。では、ラジオの放送に乗せられるか、という問題はどうでしょう?

ラジオCMには考査というものがあって、放送するかどうかまず審査されるんですね。『ダブルスポンサー』という状態ですから、難航するだろうと思ってたんですが……

考査の担当さんがスルッと通してくれまして。自分で作っといて『え、いいの?』と思いましたね

もちろん作品の良さありきでしょうけども、意外なほどうまく壁を突破していくものなんですね

突破するモノって、クライアントと共犯なんですよ。壁をどれくらい低くできるかは、クライアントとどれくらい協力できるか、で変わってくると思います

私は、これほど情報が溢れた社会で当たり障りのないCMを作っても意味がない、と思ってるんです。今、人の心に何らかの印象を残そうと思ったら、突破していなければ届かないんじゃないかと

放送された結果、CMとして成功だったという判断でしたか?

広告賞をいくつも頂いたので、ものすごく話題になりました。大成功と言えるでしょうね。アイデアがある会社だ、というイメージをつくることができたのも財産だと思っています

このラジオCMはすごく上手で面白いモノでもないし、予算が潤沢にあったわけでもない。アイデアだけで勝負したものが、ちゃんと評価されたっていうのが嬉しかったですね

なるほど。では最後に、“突破クリエイティブ”について、それぞれの立場からひとこと頂けるでしょうか? まずはクライアントである齊藤さんから。

まず言いたいのは、クライアントが“突破される側”だと思っていたらダメだと思うんですね。クリエイターと一緒に、自分たちが突破していくんだ!と思えなければ、良いクリエイティブは生まれないんじゃないでしょうか

かっこいいこと言われたら次が喋りにくいんだけど……!

そう言わずにクリエイターとして中川さんからもひとことお願いします。

う~ん、あのCMって、作る前は、高い壁がいくつも立ち並んでたんですよね。でも、その壁を守る門番がみんな『このCM良いね!』と言ってくれて。壁を突破するという時に、“アウトプットの強さ”って大事だなと思いました

それは絶対にありますね。『これは通してあげたい』と思わせるほど面白いアイデアなら、関わる人は自然と協力的になるんじゃないかな

“突破クリエイティブ”こそ、意外に軽々と突破しているものかもしれませんね

『ナショナル冷蔵庫 コンパクトBIG』ラジオCM

■GOを出したのは・・・パナソニック 株式会社

■突破したのは・・・株式会社 大広

ナショナル冷蔵庫『コンパクトBIG』のラジオCM。聞いただけでイメージが浮かぶ他社のサウンドロゴを使用することで、“容量がたっぷり入る”という製品の訴求ポイントを音声だけで表現した。